大帝/司令(広義)と音波/衝波が好き
描いたり書いたりします
《はっぱ》
ご案内。読んでね。
《ちょう》
ブルスカ。基本の住処。
《かぎ》
プライベッター。ちょっとアレなもの置き場。
メガトロンは、オプティマスと和解した。
そうせざるを得ない状態だとは理解している。遥々戻った母星は、最早死んでいた。それを生き返らせ、更にはそこに住もうと言うのだから、戦争どころではない。結果的に増えた人員で、凍える星は、徐々に、徐々に我々が住める状態へと変わりつつあった。
多少の資源でもあればとディセプティコンの基地へ赴いたのは、再開発を開始して数サイクル経過した頃だった。メモリの隅にある、小さく小さく圧縮していたそれが自然解凍されたのは、まだ俺があいつを懐かしいと思えるからなのか。
ショックウェーブ。
胡散臭く、信用ならず、俺のクローンを作り上げた狂った科学者。
ひどく好ましい存在だった。
周囲は勝手に仲違いしていると思っていたようで、あらぬ関係だった俺たちには、都合が良かった。
ディセプティコンがディセプティコンとして成立した少し後、奴の興味関心でパルスのやり取りを何度かして、そこから同志以上の関係になったのは、いつ頃だったか。
当たり前のように側にいた。
宇宙探索も共に向かうと思っていた。
しかし、そうではなかった。
あいつは残ると言った。
勿論大切な役目であるし、メガトロンの信頼がある者にしか任せられないのも理解していた。
最後の夜は、お決まりのコードで行う情交では無く、何百年ぶりにコネクタとレセプタでやり取りをした。
特に何を言うでもなく自然とそうしていたのは、まだ執着心があったのかと、恐らく互いに驚いていた。
熱い機体を横たわらせ、無機質な天井を見上げる。
排気音が落ち着いてきた頃合いを見て、何も言わずに立ち去った。
ショックウェーブも、何も言わなかった。
それで、終わり。
次に戻った時には星は滅んで、生存者は居ない。
それが答えだった。
そんなメモリがふわりと浮上してきた事に辟易として、また圧縮して放り込む。完全に消せないのは、そう言うモノだと思って諦めた。
「ショックウェーブの遺品があれば持ち帰る」
メガトロンは小さく言った。俺はそれに何も答えなかった。メガトロンは俺達の関係を唯一知っていた。その上で何も言ってこなかったのに、今初めてそんな台詞を聞いて、少し驚いた。
雪と瓦礫まみれの基地を進む。資源になりそうなものは、やはり何もない。星が死ぬまでの間に喰い尽くされたのだろう。ディセプティコンの亡骸も散らばっているが、ショックウェーブのそれは見当たらなかった。
「…少シ、見テクル」
ショックウェーブの私室兼研究室の扉が見えて、ほろりと音声が溢れる。無意識だった。そんな事は初めてだった。メガトロンは少しカメラアイを見開いて、静かに頷いた。
凍りついたドアを抉じ開け、真っ暗な室内へ入る。雪は侵入しておらず、崩落もしていない。最後に情を交わした時のまま、その部屋は残っていた。長い間主を迎えていないそこは、最早棺桶だった。
何か一つ、遺品を持ち帰る。
メガトロンにそう言われているのだ。選ばなければ。
光源がないのでライトを照らす。暗闇を切り取ったそこには、見覚えのあるものしかない。よく分からないものもあるが。
足元にデータパッドを見つけ、期待せずに起動してみる。チカチカと点滅した後、静かにそれは起動した。
そこに表示されているのは短い一文と、選択肢。
『起動』
『YES/NO』
ショックウェーブのデータパッドに表示されたそれは、俺のスパークへ妙な期待と不安を与えた。
少し躊躇した後、肯定を選んだ。鈍い音をたてて無機質な壁が開く。壁だと思っていたそこは、奥へと続くわずかな空間への隠し扉だった。
ぼんやりと光る部屋とも呼べぬ狭い場所。
そこに、居た。
薄い青に光る培養液で満たされたポッドの中、数本の太いコードと無数の細いコードに纏わりつかれた、単眼紫の機体。
「ショックウェーブ」
使用エネルギーを極限まで抑えている為、スパークの輝きが無ければ死んでいると見間違う程弱々しい。
残り僅かなエネルゴンを使ってスリープ装置を作り、ここに隠れていたのだろう。…相変わらず抜け目がない。
ショックウェーブの起動の為にゆっくりと排出される培養液を見ながら、自分のものではないコードが憎たらしくて嫌悪する。
苛立ちながら待っていると、嘲笑うかのように培養液の排出が途中で止まる。装置が劣化し上手く機能しないのだろう。
俺は力任せにポッドを叩き割り、中から機体を引き摺り出した。少ないエネルゴンで長くスリープする為だろうが、下品な程にコードが繋がれた見た目は不快だった。それらを手荒に引き千切り、シリンジ型エネルゴンを装甲の薄い首へ注入する。
エネルギーが殆ど残っていない機体が、濃縮されたエネルゴンを注入された衝撃にひくりと反応した。
しかしそれだけだ、ショックウェーブは全く動かない。
「ショックウェーブ…?」
物音に反応したメガトロンが部屋へ駆け込んで来たが、俺は色の失せた単眼から目が離せなかった。エネルゴンが機体に循環するまでの僅かな時間が永遠に感じる。
そこで、ゾッとした。
自分にこれ程までの執着があった事に。
感情がないと、よく言われた。間違ってはいないと思う。欠陥なのか、はたまた元からそう出来ていたのか、俺には感情がない。ショックウェーブへ向けるそれも、興味関心の延長だと自分自身で思っていた。
変人で、狂人で、天才で、理解不能。
そんな奴に向ける好奇心だと、思っていた。
今の今までは。
「サウンドウェーブ、落ち着け…エネルゴンが循環しても、目醒めるには時間がかかる」
メガトロンの手が腕に触れ、思考を止める。
見たことが無い顔をして、メガトロンは俺を見ていた。
オプティマスと和解してから、随分甘い顔をする様になったと思う。
俺はそれが、嫌いでは無かった。
「…分カッテイル」
静かにショックウェーブへ視線を落とす。スパークの光が先程より輝いているが、まだまだ弱々しい。
「基地へ戻るぞ、ショックウェーブを」
「俺ガ運ブ」
メガトロンの手を押し除け、ショックウェーブを抱え上げる。軽くは無いが、持てなくは無い。
歩いて帰る気か、という視線が投げられたが、気付かないふりをした。メガトロンは何か言葉を選ぶ様なそぶりを見せたが、結局何も言わなかった。
言いたい事は大凡検討がつく。
そもそも俺自身が一番動揺して、混乱している。
俺はショックウェーブが生きていて、嬉しい。
俺はショックウェーブが目覚めない可能性を考えて、怯えている。
よくここまでの長い時間、耐えていたものだと可笑しくなる。
知らないふりを続けるのは、存外得意だった様だ。